異教科間で対話し協働できる教員の育成に関する研究

Program in Curriculum and Instruction Sciences, Graduate School of Education, Hiroshima University

教科教育学専攻(広島大学大学院教育学研究科)

2016年[H28]
研究報告
REPORT 2016

異教科で協働できる教員を育成するための実践的研究 (1)

-教科教育学専攻の共通科目の始動を通じて-

本研究は、平成28年度より始まった「教科教育学専攻」における新しい共通科目(「教科教育学研究方法論」、「教科教育学融合プロ ジェクト」、「教科教育学の実践的展開」、「教科教育学の実践的検証」)が始動する際に得られた知見を分析・考察し報告するものである。本報告書は、その研究の要旨を、(1) 経緯について、(2) 各教科について、(3) 実践からの考察、(4) 理論からの考察、(5) 学生の振 り返りからの考察の五点から述べる。

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経緯
各教科
実践からの考察
理論からの考察
学生の振り返りからの考察
研究メンバー

HISTORY

経緯

1.教科教育学専攻の再設置の経緯について

平成26年4月に大学院改組準備委員会が設置され,改組後の理念の検討とともに,専攻,専修等の再構想が行われ,旧来の科学文化教育学,言語文化教育学,生涯活動教育学の3専攻は教科教育学専攻として統合する方向が示された。その後サブワーキングによる専攻共通科目の検討,平成26年度末の課程認定に係る作業,平成28年度開講に向けての実務的な準備を経て現在に至る経緯について述べた。
(鈴木明子*)

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2.教員自身の「異教科間コミュニケーション」

本稿では、「教科教育学研究方法論」の構想期・準備期・実施期を振り返り、教員自身がいかに自らとは教科・専門を異にする同僚教員とコミュニケーションをとってきたかについて振り返る。構想期については「改革ありき」と「二種類の融合」の観点から、準備期間については理念(「持続可能性と革新性」)の堅持という観点から、実施期間については「主要教科」という表現がもつ偏見の観点から主にまとめる。
(柳瀬陽介*)

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SUBJECTS

各教科

1.教科教育学研究方法論

本稿では、「教科教育学研究方法論」の授業目的を、複合性 (complexity) の観点から、3.11以降の日本の状況やスマホを巡る諸問題を例にして説明した上で、 2016年からフィンランドで開始された、教科の枠組みを超えた「テーマ別授業」についても簡単に紹介し、知識がますます高度に相互依存する現代においては、専門家 が相互にコミュニケーションをとれることが決定的に重要であることを論ずる。
(柳瀬陽介*)

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2.教科教育融合プロジェクト

本稿では、教科教育の現実的問題について、各教科の枠組みを越えて多面的・複眼的に探求することを通して、多角的な課題設定および問題解決能力を涵養することを目的とする授業である「教科教育学融合プロジェクト」の概要を示す。
(濵本恵康*)

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3.教科教育学の実践的展開

本稿では、「教科教育学の実践的展開」の授業実践を、導入シンポジウム、中間シンポジウム編、最終シンポジウム編の三段階から記述した。導入シンポジウムでは、参加する全10教科の教員が2回に分けて自身の教科の意義・固有性をプレゼンテーションした上で、他教科の学生による情報共有や討議を行った。中間シンポジウムでは、各教科の目的の固有性と普遍性についての理論・文献研究の成果を発表した。最終シンポジウムでは、各教科の目的の固有性と普遍性を踏まえた授業案を構想し発表した。
(草原和博*・樫葉みつ子・鈴木明子)

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4.教科教育学の実践的検証

本稿では、教科教育学の専門性に基づいた「リサーチ力」、すなわち、教科の特性や目的を実現する授業の開発・実践または調査・分析を通して、教科教育学の理論を再構築できる知識・能力を育成しようとした「教科教育学の実践的検証」の概要を示す。
(草原和博・樫葉みつ子・鈴木明子*)

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PRACTICE

実践からの考察

1.教科教育学研究方法論を担当して

平成28年度に開講された大学院博士課程前期の共通科目「教科教育学研究方法論」において、教育学研究科教科教育学専攻(10専修)の受講学生が、教育学、 心理学、教科教育学の研究に関する講義と各教科の現状と可能性に関する講義を基に、異なる教科における研究方法の相違や共通性等について議論した。本稿で は、理科教育の立場から本授業に参加して担当した内容、及び他教科の学生・教員との議論により感じた事柄等について述べる。
(蔦岡孝則*)

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2.教科教育学再考の第一歩が始まった

平成28年度に広島大学大学院教育学研究科の教科教育学専攻で始まった「教科教育学研究方法論」という1年次の必修科目を学生の戸惑いという観点を中心に して振り返る。この授業は10教科が一堂に会し教科教育学全体を扱うというこれまでにないものであり、学生にも実施する教員にも学びと反省があり、総合的に初年 度として教科教育学の再考の第一歩となったと評価する。
(北䑓如法*)

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3.異なる専門をもつ者が対話を成立させるために -横断型科学技術の考え方から学んで-

本稿では「教科教育学研究方法論」にたずさわった経験をもとに、著者の専門とする横断的科学技術のタイプの工学に関する知識に基づいて、異なる専門を持つ者 が対話を成立させるために必要なことについて考察する。異分野の人間が共同で問題を効率よく解決するためには、抽象的に考え、「問い」を立て「対話」を行い、検証 を行うための「行動」が必要である。また、「対話」の方向性についても述べる。
(田中秀幸*)

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4.教科教育学研究方法論を担当して -家庭科教育の視点から-

本稿では、「教科の課題と可能性」に関する家庭科に関する講義を振り返り、教科教育学専攻における本授業の意義と今後の課題について考察する。講義は、(1) 家庭科を理解する、(2) 家庭科から教科の在り方を考える、(3) 家庭科教育学研究の可能性から教科教育学研究の可能性を探る、を主な内容とした。意義と課題については、他教科理解と共通テーマの発見について述べた。
(鈴木明子*)

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5.音楽科と他教科との協働について考える -平成28年度「教科教育学研究方法論」を振り返って-

筆者は、平成28年度「教科教育学研究方法論」において、「音楽科の課題と展望」をテーマに講義を担当した。この講義は「美術科」との合同で実施され、近接分野としての共通の問題点を確認した他、受講生に芸術系とそれ以外の科目との協働の可能性について問う内容となった。その結果、改めて他専攻在籍者の音楽科に対する認識と、当事者のそれとの相克に気付かされることとなった。その「気付き」は、他教科との連携を模索する上での第一歩であると感じている。
(徳永崇*)

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6.教科を超えた協働の現実性に関するノート -初年度の教科教育学研究方法論を通して-

方法論としての授業の目標設定やその明確化・共有において不十分な点があったことは否めず、段階を踏んだファシリテーションという点からも課題の残る初年度で あった。教科の枠を超えた教育上の課題解決を見出そうとした授業であったが、受講生の反応としては、教科の枠を超える方向性よりは、既存の教科の課題解決が先であるという意見が多く見られ、教科を超えた協働による課題解決はそう容易ではないことを改めて認識した。
(八木健太郎*)

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THEORY

理論からの考察

1.ことばを分かち合う「対話力」の重要性

異教科間での協働において不可欠なのは、ことばの分かち合いである。同じことばでも、各教科の教科内容や、指導論の文脈によって、異なる意味で用いられている。 例えば、教科教育学科博士課程前期の選択科目「教科教育学の実践的展開」においては、「環境」ということばを、数学科、理科、家庭科、国語科の院生がそれぞれ異 なる意味で用いながら各教科の特性を説明する場面が見られた。しかし、教師の協働において重要なのは、そうしたことばの意味や使い方を一つの厳密な定義によって 限定的に規定することではない。お互いの使い方や意味の差異がどこにあるのか、何に由来するのかを理解し合うことである。それを実現するのは、「対話」であり、協働する教師には、そうした「対話力」が求められる。授業における学習者の「対話的、主体的な学び」の保障も、そうした教師の「対話力」が基盤となる。
(間瀬茂夫*)

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2.教科融合に寄与する学習言語カリキュラムの特徴

従来の学校教育における教科の枠組みを越える新たな試みの一つとして、CLIL(内容・言語統合教授法)が注目を集めている。カナダにおけるイマージョン教育に端を 発するCB(I 内容重視の教授法)が内容を重視して言語の習得を目指すのに対して、CLILは外国語を使って特定の教科内容と言語の同時習得を目指す教科教育と されている。CBIもCLILも単一の教科教育に新たな視点を取り込むアプローチであるが、その使用内容をどこから選定し、組み合わせるか、言わば内容中心のカリキュラ ム編成と言える。しかしながら、これらの内容を伝えるものは言語であり、言語の持つ形式的、認知的、社会文化的側面は各教科独自のものが存在する。たとえば「和」と いう文字には、算数・数学での意味、「平和」に込められた社会科での意味、また「洋」に対する「和食」のような国語科、家庭科での意味があり、教科学習においては各 教科独自のそれぞれ異なる意味を文脈に応じて理解・表現できることが教科の学習能力に大きな影響を与える。ここで教科言語を教科横断的に再編成する試みを、バ トラー後藤(2011)を援用して「学習言語カリキュラム」と名付けると、教科を融合しようとする試みは、教科内容と教科言語をそれぞれタテ糸、ヨコ糸にしながら、学習に 寄与することができるであろう。このように、内容中心カリキュラムと相対する、学習言語カリキュラムの特徴から、教科融合の可能性を探る。
(深澤清治*)

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3.意味と真理の概念から捉えた対話の概念

本論は、「教科教育学研究方法論」で対話を進める際に筆者が参考にしていたDavid Bohmの対話論をまとめ、その一部にNiklas Luhmannの意味論を補足し、かつ意識の統合情報理論 (Integrated Information Theory) の考え方も参考にしながら再整理したものである。
(柳瀬陽介*)

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4.本質性か連動性か?

「教科教育学研究方法論」において、「10教科共通の・・・」といった表現が多用されたが、この表現が意味することは認識論の違いによって異なりうる。本稿はこの表現の、本質主義 (essentialism) に基づく意味と、親族的類似性 (family resemblance)に基づく意味を比較検討することによって、異なる教科間で対話し協働する際の基礎認識について考察する。
(柳瀬陽介*)

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REFLECTION

学生の振り返りからの考察

1.学生の振り返りから見た「教科教育学研究方法論」での学び -技術・情報教育学専修について-

技術・情報教育学専修の学生を対象に本講義を受講することで得られた学びについて、各講義の終了後にまとめさせた学生の振り返り(Bb9)を基に検証した。本講義の受講を通して、多くの学生が他教科の教育目標や内容、課題、研究法に加え、教育学・心理学の研究法などについて知り、他教科の学生との議論を通して、自身の専門とする教科について様々な視点から広くかつ深く考える態度を芽生えさせることができたと考える。
(木村彰孝*・田中秀幸)

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2.人間生活教育学専修におけるBb9の分析

広島大学のオンライン学習システムであるBb9の活用により,学生は継続して自らの思考について振り返ることができたため,その成果が教科全体の学習,専攻別学 習というそれぞれの段階に生かされ,最終的なまとめにつながったと思われる。
(村上かおり*)

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